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カチャカチャカチャ…ポチ…カチャ…カチャ…カチャ………。
「ピーンポーン」
私「!?」
スタッフA「時刻は間もなくして、22時となり、閉館時刻となります。ご用のある方は、お早めにお願いします」
私「………(帰宅準備)」
最近、時間の流れがとても早く感じる。
私は最近趣味でプログラミングと当ブログの編集にハマっているのだが、プログラミングは、参考書を読んだり、ググったりしてコードを打ち込み、ブログは文献を漁ったりしながら進めている。そして、そんなことをしているうちにあっという間に時間が流れ、気づくと夜中になっている。
ああ、今日も1日が終わってしまった…
そんな虚無感に襲われながら、日々荏苒と過ごす日が続いているが、いつからこんなにも時間が早く過ぎると思うようになったのだろうか…。
この不思議な現象が起こる理由としてよく挙げられるのが、「ジャネーの法則」というものだろう。ジャネーの法則とは、年少者の者ほど時間が経つのを遅く感じ、年長者になればなるほど時間の経過を早く感じるという、フランスの哲学者ポール・ジャネさんが発案した心理法則だ。
Paul Janet
画像出典:Wikipedia
例えば、10歳の子供にとって1年の長さは、人生の長さで言う所の1/10に当たるが、30歳の大人の場合、一年の長さは人生の長さの1/30になる。これは、10歳児の人生の1/3の長さに当たり、年換算すると、10歳児の1年は、30歳の大人が過ごしてきた3年分に相当するということになる。つまり、人生の長さは、自身の年齢が一年に対して反比例する形となる為、年を重ねるごとに、一年の長さが相対的にどんどん短くなっていくというわけだ。
しかしこの現象、単純に心理法則だけで片付けられる問題でもないらしい。これについて、生物学者の福岡伸一さんは生物的見地からこのような見解を述べている。
福岡伸一
そもそも生命って何…?という謎に切り込んだ『生物と無生物の間』(2007年発売)は大ベストセラーとなり、大きな話題を呼んだ
画像出典:NHK出版
今、私が完全に外界から隔離された部屋で生活するとしよう。この部屋には窓がなく、日の出日の入り、昼夜の区別がつかず、また時計もない。(中略)
私が3歳の時、この実験を行って自分の「時間間隔」で「1年」が経過したとしよう。そして私が30歳の時、もう一度この実験を行って「1年」を過ごしたとする。いずれも自分の体内時計が1年を感じた時点が「1年」ということである。それぞれの実験では、実際の物理的な経過時間を外界で計測しておくとする。
さて、ここが大事なポイントである。3歳の時に行った実験の「1年」と30歳の時に行った実験の「1年」では、どちらが実際の時間としては長いものになっただろうか。
以外に思われるかもしれないが、ほぼ間違いなく、30歳の時に感じる「1年」のほうが長いはずなのだ。なぜか。
それは、私達の「体内時計」の仕組みに起因する。生物の体内時計の正確な分子メカニズムは今だ完全には解明されていない。しかし、細胞分裂のタイミングや分化プログラムなどの時間経過は、すべてタンパク質の分解と合成のサイクルによってコントロールされていることがわかっている。つまりタンパク質の新陳代謝速度が、体内時計の秒針なのである。
そしてもう一つの厳然たる事実は、私達の新陳代謝速度が加齢とともに確実に遅くなるということである。つまり体内時計は徐々にゆっくりと回ることになる。しかし、私達はずっと同じように生き続けている。そして私達の内発的な感覚はきわめて主観的なものであるために、自己の体内時計の運針が徐々に遅くなっていることに気がつかない。
つまり、年をとると1年が早く過ぎるのは「分母が大きくなるから」ではない。実際の時間の経過に、自分の生命の回転速度がついていけていない。そういうことなのである。 - 福岡伸一『動的平衡』-
生物学の視点から見ると、どうやら自身の体内時計のスピードは年を取るごとに遅くなり、時間の流れについていけなくなることが原因で、この不思議な現象が生じるらしい。
だが、門外漢の私に取って、これは要するに一体どういうことなのか、正直な所、あまり釈然としない。そこで、生物学を研究している友人にこの疑問について尋ねると、こんな答えを返してくれた。
代謝というのは、体の中で起こっている化学反応のこと。ABCと変化して、またAに戻る化学反応があるとして、その1サイクルを1日と認識していると仮定します。それが、老化してだんだん遅くなってくると、AからAに戻るまでには一日以上かかるような状態となってきます。そうすると、体の代謝としてはABCの1サイクルがやっと終わった段階で、現実では時間は1日以上経過してしまう。体のサイクルと実際の経過時間にずれが出てくるので、“あれ、思ったより時間がたっているぞ?時の流れははやいな…”という感覚になってくるのではないかということです。
こんな事実を知ってしまうと、人間の体って若いうちからどんどん劣化しているんだなあ、と驚いてしまう一方で、平安時代の平均寿命が30歳前後だったという事実も、生命のふるまいからしてみればある意味それは当然なんだなあ、という超高齢化社会を生きる私にとって、この事実に妙な物覚えを感じてしまう。
「人生100年時代」。世界的ベストセラー『LIFE SHIFT』の著者リンダ・グラットンが提言した言葉であり、国連予測によると、2107年には主な先進国の半数以上が100歳よりも長生きするそうだ。100歳…あと74年も生きなきゃいけないのかあ、とこの言葉を知った時に思ったが、案外その日は私が思う以上に早いのかもしれない。
参考資料
吉川和輝. 大人はなぜ時間を短く感じる?. 日本経済新聞. 2010/6/1
https://www.nikkei.com/article/DGXBZO08220480X20C10A5000000/
参考図書
リンダ・グラットン, アンドリュー・スコット(2016) 『LIFE SHIFT』 東洋経済新報社